さよなら!僕らのソニー

さよなら!僕らのソニー (文春新書)。著者はジャーナリスト。ノスタルジーに溢れるあまり、公平的で客観的な視点に欠ける嫌いもあるが、それこそタイトルに「僕のソニー」と謳う位なのでいやな気はしない。本書を読み終えた際に真っ先に思い浮かんだのは「グーグルで必要なことはすべてソニーが教えてくれた」。本を読み終えた時点で、関連する他の本を読みたいと思わされた時点で及第点。

内容そのものはソニーブランドがいかに滑落をしていったか、ではなく、出井以降の体制に対する批判であり、結果論的な分析にとどまる。確かにおやおやと迷走を思わすリアルタイムな記述も少なくないがブランド戦略に失敗したのはエレキ(技術)軽視と断罪してしまうのは正直軽薄な気もする。

とくにテレビ事業に関するオペレーションの甘さを指摘する部分もあるにはあるが、具体性に乏しく、また、他社を踏まえての分析も無いのでその点は非常に物足りない。ソニー滑落の原因は本書で述べられている、技術者軽視および技術者が会社を去るという点にあるのは間違いないとは思う。ただ、それ以上に、技術者を離脱させてしまうような社内カンパニーの連携不足、iPodと類似する製品ををデザインしつつもソニーミュージックエンターテイメントに気を使い立ちあげられなかった、ことなど、そもそも社内の意識の低下が大きいのだと思う。

そしてそれを経営者の問題、視点だけで切ってしまうのは正直物足りない。むしろ、役員・部長クラスの意識がソニースピリットを失ってしまったことに問題があるのではと思ってる。

そういう意味で第5章の約1.5ページで語られてしまった「25人のプレジデント」。ここをもうちょっと掘り下げて欲しい。また、同時代の他社の分析もあるとなおのこと良いのだろうが、新書にそこまでを求めるのは酷か。

ただ、繰り返しになるが他の本を読みたいと思わせた時点で価値ある一冊。

 

追記:本書を読んでも、どうすればソニーが(この本で言う)ソニーらしい会社でいるのか、は全く分らない。そういう意味で「さよなら!」というタイトルもある意味適切。

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