年別アーカイブ: 2011年

F1 戦略の方程式

F1 戦略の方程式 世界を制したブリヂストンのF1タイヤ (角川oneテーマ21)

ブリジストンでF1のタイヤ開発に携わり、良くレース前にもインタビューにも答えていた浜島さんの著書。可夢偉が、右京に!でF1奥深さに魅せられていたので即購入。タイヤの使い方に関しては、可夢偉が、右京に!でも熱の入れ方をはじめかなり詳しく書かれていたけれど、F1をタイヤから切る本だけに、情報量は膨大。開発を巡る日本とのやり取り、物流、ミシュランとのタイヤ戦争、そしてレーサーとのコミュニケーション。何気なくテレビだけ見ていると全く実態はつかめないけれども、これ1冊を読むだけでもレースの面白さが伝わるでしょう。

F1ファンにはお勧めの一冊。

凛と咲く  なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦。

凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦

サッカー本では久々のヒット。いや、過去最高かも。28年目のハーフタイムでスポーツノンフィクションにどっぷりとつかり、今まで数えきれなくなるほど、読んできたけれども、久々に読んで気持ちよくなる一冊。ワールドカップの結果は確かに良かった。一つの結果を複数の選手のコメントと自身の取材をもとに記載している構成も良い。そして不遇の時代から長年取材を続けた事による選手との信頼関係も素晴らしい。

ただ、何より女子サッカーに対する、選手に対する愛情にあふれている。

不遇の時代から取材を重ね、女子サッカーのブームに一喜一憂し、ピッチの外から見守り続けてきたからこそ書ける一冊。

ドイツ戦後のテレビのインタビューの収録前に「真理さんやったよ!!」と語った丸山。

ワールドカップ終了後のドイツの空港のお土産屋で「予定より長くなっちゃって、すいませんね~」と声をかけた近賀。

選手との信頼を感じさせるエピソードは事足りず、それでいて、著者の存在が邪魔に全くならない文章。そして選手の信頼関係やチームワークもどこの雑誌より、本よりも詳しく深く書かれている。

文庫版が出るほどに売れて欲しい一冊。今年のMyBookランキングNo1は確定です。

官僚の責任

官僚の責任 (PHP新書)。古賀茂明の事を最初に知ったのは、田原総一郎のブログか対談がきっかけだったろうか。

その後、週刊誌でも名前は見ていたのでちょっと気になった。書籍を手に取った時は仙石官房長官から恫喝を受けた一部始終が気になった。ので、買ったのだと思う。官僚本は、以前「国家の命運」を読んだが、外務省で無く経済産業省とい事もあってレジに運んだと思う。

書籍全般で書かれている官僚像・仕事は、以下。

①作文

②先輩・後輩天下り至上主義

③縦割り

私は祖父が官僚だったけれども、祖父が過ごした定年以降の動きと直近の官僚の動きはずいぶんと違って見える。それこそ戦後の官僚とだいぶ違うのだろう。

それにしても官僚というと、ひどく縦割でひどい仕事をしている印象を持たれがちだし、その一端は克明に描かれ、糾弾されている。確かにその通りなのだけれども、一方で自分や近い会社を振り返ると非常に似ている印象を受ける。部署の壁は厚く、国策よりも部策。作為的にそうしている訳で無くとも、自然とそういう空気があるという点で考えされられた。

ちなみに、著者のとらえる官僚像と、別途レビューは書くが、ケビン・メアの語る官僚像は非常に似ている点は興味深い。

書籍としては及第点。。。

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣

心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣

ずいぶん前から書店に並んでいるのは知ってたが、どうにもサッカーとしてのノンフィクションじゃない気がしたり、妙にまとまったタイトルだったので、手が伸びず。サッカー選手のノンフィクションは大半買うので非常に珍しいパターン。ただ、新聞広告で50万部突破と聞いて決心しました。買うと。

本から伝わるのは、ひとつひとつの心を整える方法論ではなく、長谷部の真面目さ。長谷部誠という著名でなければベストセラーにはなっていないだろうが、現役の日本代表選手が、普段感じていること、意識していることが、真面目にひとつずつ整理されていて、それがサッカー選手長谷部のピッチ外での様子や人間模様を描写していると思う。

そして、これだけ表現力のあるスポーツ選手が果たして何人いるのだろうと感じさせられるか。年下とはともても思えない文章力。様々な書籍からの引用。(いくら本を読んでもしっかりと読まないと引用できるほどエピソードを消化できない!!そして、オレは引用できるほど覚えてない!!から余計に驚く)

また、これだけピッチ外の事が書かれているサッカーの本は珍しい。茶髪にした時のエピソードは浦和レッズの内情を表しているようにも聞こえる。Mr.Childrenのベスト15は思わずすぐにiTunesでプレイリストにした。南アフリカワールドカップのエピソードは相変わらず選手によって違うのが面白い。

書くに足りないエピソードは多いが、誠実であること。真摯であること。準備をすること。それが心を整える事だろう。すぐ実践したい。

超訳 マキャベリの言葉

超訳マキャベリの言葉。忘れてしまったが某かの本を読んでいたときにやけに哲学者や高校の授業で聞いたような名前が多かったので、という事もあって興味があったんだと思う。新書なので読みやすいし購入。

リーダーシップについて書かれている本はここのところ購入する本に多い共通したテーマだけれども、その手の本は綺麗に書かれていることが多い。リーダーたるもの人格者でもあるべきと言う訳か。それとも汚い部分は品位も疑われるからか。

ただこの本は比較的生生しい手法も書かれている。そういう意味でマキャベリに関する興味も膨らむ。

スタッフを惑わせない為には、新戦略の「さわり」を訓練させ、少しだけ慣れさせておけばいい。これによって、よい緊張感を持って新たな仕事に挑むことができる。

普通は常に刺激を与えて緊張感を持たせるとかって言うよね。「惑わせないために」「少しだけ**させておけば良い」という生生しい表現が新鮮w。

約束や契約など気にかけず、人を裏切って混乱させたリーダーが、真面目にやってきた人間や組織を圧倒し、大きな仕事を成功させるのは珍しくない。

これはスティーブ・ジョブズそのもののイメージだね。アップル追放前を非常に思い出させる。

組織が秩序を保ち、全員が利益を享受するには清貧であるべき。

かと思えば、きれいな話も出てくる。

組織論を語るにはドラッカーから教えられる部分もあるが、500年以上前のマキャベリが教えてくれる部分も数知れず。そして人の本質を上手く表現しているようにも感じる。マキャベリの一面を軽く知るには良い本。もう何冊かマキャベリを読ませたいと思わせてくれた時点で良著。

3-4-3 究極の攻撃サッカーを目指して(杉山茂樹)

気がつけば4ヶ月近く更新してませんでした。本を読んでいないわけではなく、ネタはあったんだが、どうにも筆が進まなかった。ということで、また気の向くままに更新します。というわけで久々の更新は軽いこいつから。

3-4-3 ~究極の攻撃サッカーを目指して~

サッカーの評論との出会いは1996年の杉山茂樹のナンバーの記事が最初。たしか、当時はファルカンから加茂監督でしばらくした後で、名波が代表に定着し始めて、緩やかにドーハ組からの世代交代が行われていたころ。当時は、ゾーンプレスと呼ばれ一斉を風靡していた?4-2-2-2をバッサリ切り捨ていたのが、杉山茂樹の記事だった。

記事の内容も的を得たように感じ、4-2-2-2でプレスを掛けようとすると、中盤の人数が少ないこと、ベンゲルの4-4-2や、フリューゲルスだったか4-5-1に近いフォーメーションと比較しての構造的な考察を、選手のインタビュー-特に4の前の2の負担が大きいことや、サイドバックが参加しないと攻撃とならない-を元に上手くまとまっていて、目からウロコだった。

当時は監督批判すら珍しく、新しい視点に感動を覚え、以来戦術、サッカーの仕組みに取りつかれていくことになる。

という過去の経緯もあり、また、前著4-2-3-1もそれないに楽しめたので期待して買ったのだが、正直がっかり。

そもそもフォーメーションを語る本なのに、ところどころに出てくるフォーメーションの図が文章と上手くつながっていない。編集者がサッカーを知らないのだろう。微妙なギャップを描くこともなく、ピッチの絵の上にマスゲームの如く左右対称に並べられた選手の名前が並ぶだけ。

せっかく、いくつかのゲームを題材にピックアップして解説しているのだから、両チームのフォーメーションを一枚の絵にして、ギャップを図示すれば臨場感も溢れ読みやすいのだが。

また、試合の記述に臨場感が全くない。著者の1人称で物語は進むのだが、淡々とした評論となっており、物語に入り込めない。一部、関係者の一言の記載はあるのものの、インタビューや様々な人の声があまりに小さい。

「第7章 なぜ日本代表に3-4-3が必要なのか」にしても、押しは弱い。

ポイントとしてあげられているゲームは、見たゲームが多く、また鮮烈な印象を残しているゲームばかり。2002年のワールドカップの韓国は現地で生観戦をして、日本サッカーが10年置いていかれたような鮮烈な印象を受けたし、2005年のチャンピオンズリーグ決勝で0-3からミランに逆転勝ちしたリバプール、1994年のワールドカップ準々決勝のブラジルVSオランダに、ユーロ2004のチェコVSオランダ。普通であればゲームのイメージに文章・図がオーバーラップして、流れる水の如く読めるはずなのだが、文章力の問題なのでしょう。本に入り込めません。

氏の文章には期待が強かっただけに、残念ながらがっかりな一冊でした。サッカー書籍を15年以上読んでいる私には物足りない内容でした。

マイクロソフトで学んだこと、マイクロソフトだからできること

マイクロソフトで学んだこと、マイクロソフトだからできること。

本屋でたまたま目に留まるも、一度は見送り。でも、別の日に行ったときに目に留まり、購入。HPの社長がダイエーの社長になると聞いて、びっくりした記憶があり名前は以前から知っていた。ただし、キャラクターは全く知らず。

本が気になったのも、マイクロソフトの仕事の仕方や考え方が書かれているのが一目取れて分かったから。そういう意味で期待通りの本。

経営陣が細かな数字から各国の状況を詳細に把握しているというのはビックリさせられるも、ソフトバンクでは、役員・上司が現場の詳細を話すことができなければ仕事を役員・上司の意味が無いと切り捨てられる話とも相通づる。

アメリカの経営陣から樋口さんに突きつけられた30以上ある行動指針には優先順位が付けられるものが無く、全ての優先度が高いという話は圧巻。サーベイの徹底・公開も圧巻。これはうちの会社でも仕組み的にはできない話では無い。(ただ、嫌がる人が多いだけ)。全社員を一同に介して年一回行われるイベント。これはうちの会社でもできるだろうが、愛社心があってこそか・・・。XXミーティングの類は多分どこの会社でもやられているだろう。

ただ、全般を通して、果たしてこれほど熱く語れる経営者はどのくらいいるのだろうか。

数日前に部長と話した際も思ったが、熱さが大事だと思う今日この頃。

マイクロソフトも知れますが、熱さを感じたい時に読みたい一冊。

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか (角川oneテーマ21)

振り返るとここのところ、企業のノウハウ本?が多いですが、これまたタイトルに釣られて買ってみた本。

サムスンの売り上げが日本の大手家電メーカの合算よりも遥かに高いのは新聞で語られている事もありちょっと気になっていたが、一方で、品質が悪かったイメージも残っていた。

が、過剰品質、という言葉に表されるユーザには判別不可能な品質がそのすべてを表している。また、中島聡さんが言う、カタログ作りの日本の家電メーカー、ものを作るユーザを見た製品をおもてなしの心で作らなければいけないという、同じ意見が、サムスンでの仕事を通じて出てきている点は面白い。

また、辻野さんが言う、ソニーの遺伝子ならぬ、松下幸之助さんの遺伝子がサムスンにあるのでは、という考察も興味深い。

優秀な会長の英断によるIMF危機の前に舵を切っていたこと、サムスンに落ちたので国家公務員になると言われるほど集まる優秀な頭脳、海外では徹底的に現地に溶け込ませその土地のディープスマートを獲得させる戦略、大リストラで排除した官僚的な文化、いずれもなるほどと思わされます。

一線で働いてきた方々が語る言葉には、多くの共通点を感じる今日この頃。

P&G式伝える技術 徹底する力―コミュニケーションが170年の成長を支える

P&G式伝える技術 徹底する力―コミュニケーションが170年の成長を支えるP&G式伝える技術 徹底する力―コミュニケーションが170年の成長を支える (朝日新書)

P&Gという会社の特徴は全く知らなかったけれども、何かとコミュニケーションがうまく言ってない時だったので購入。

色々なテクニックが紹介されていると共に、人を育てる環境、どのような事がP&Gで求められ徹底されているかという点が強調されており、この点がまさにタイトルにある徹底する力の表れと感じる。

技術面について書かれている本は良くありますが、徹底する点を書かれている本は少ないので良かったです。

また、P&Gそのものがグローバル展開で成功している点の紹介も興味深い。日本人がグローバルに活躍するためには、、、自分だけで考えず世界の知恵を活用すること、自ら情報提供・自己の価値を語り人脈を得ること、知識は作り残していくこと、一つの案件を終えたときに成長を語ること、などなど。また、消費者も世界によって求めるものが異なるので、画一的な展開は絶対にしないこと、など、狭い世界で仕事をしている自分に刺激となる内容が多くあり良かった。

新書というと、面白い内容もありつつ、一冊を通じたメッセージやまとまりが欠けるものも多いですが、珍しく、最初から最後まで一つのテーマに則り書かれた良くまとまった本でした。

良かったトピックス。(3つにまとまってない・・・)

3つにまとめる力

正しいことをする力

お金や資産が、ブランドのすべてが無くなってしまったとしても、社員さえいれば10年で元に戻せる

DemandとCare

(海外と仕事をする際に限らず)「あっち」「こっち」という言葉は厳禁)

自分の価値を語ること

プレミアムビジネスモデル、意識的に世界に目を向ける

etc・・・

エンジニアとしての生き方

エンジニアとしての生き方  IT技術者たちよ、世界へ出よう! (インプレス選書)

著名なブロガー・プログラマー中島聡氏の著作。中島氏の存在を知ったのは、たまたま会社の先輩のブログからリンクを見つけてのもの。その時のエントリーはあまり興味を引かなかったのだが、他のエントリーを見るに連れて、徐々に引きこまれていき、今では、心の師なる存在。

SIerという業界で働いていると、そもそもエンジニアという存在が異質なものなのでストレスを感じる部分も多いが、自分がそもそも信じているエンジニア像、技術に非常に長けて、企画・センスもあるというキャリアイメージを具現化してくれる存在。

学生時代に大学の学術情報センターでアルバイトした経験から言うと、大学規模のシステムでも管理者は20人弱。20人で学内の数百台のPCをの管理から、学内外のネットワーク、ファイルサーバ含めて管理していた。外注も一切なしで、(と言っても、ハードの初期セットアップは委託していたが)、事務所にはオライリーが山ほど並んでいる。ICカードからプリントするシステムが2001年時点で内製で運用していたり、ブートローダーも作ってしまう。

そんな環境を見るに、プログラマとしては到底活躍できないだろうと思い、SIerという少し業務寄りなところへ就職したつもりだったが、方やプログラミング言語を大して知らない1~2年目が動くものを書いてしまうエンタープライズな開発に愕然としたことも思い出す。それでも、それじゃいかんと思い、技術書を漁ったりもしたが、やはり、仕事上そこまで求められるケースはほぼ無く、ギャップに悩む事も多い。ただ、SIer、SEに関する以下の記述になるほどなと思わされるし、進むべき方向を暗に照らしているようにも感じる。

私の理解では、SEという職業はレストランに例えればウェイターである。それも、メニューから料理を選んでもらう通常のレストランとは異なり、「客の注文するものなら何でも作る」という個別注文レストランである。

そんなレストランであるから、客の注文もさまざまである。「豚のしょうが焼き定食」と料理を指定する客もいれば、「今が旬の魚を使った寿司」とか、「ご飯のおかずになるものなら何でもいいけど、コレステロールが気になるから野菜を多くしてね」という漠然とした注文も来る。ウェイターの役目はそれぞれのお客さんに満足してもらうには、何を作るのが一番良いのかを見極めて、キッチンに伝えることである。

難しいのは、客が必ずしも料理に詳しくはないので、真夏に「生牡蠣が食べたい」などと無理を言って来る客がいることである。そこを相手の自尊心を傷つけずに、「お客様、今は8月なのであいにく生食に適した牡蠣がございません。牡蠣フライではいかがでしょう」などと客を説得しなければならない。そういった仕事をちゃんとせずに、「生牡蠣一人前!」とキッチンに伝えてしまうと、料理人たちからは、「あのウェイターは料理のことが分かっていない」と非難されてしまう。

優秀なウェイターになると、客の好みや健康状態、季節の食材、キッチンにいる料理人の得意料理、各料理にかかる時間、食材のコスト、などが全て頭に入っているために、客にも喜んでもらえるし、キッチンからは信頼される。そんなレストランの客席はいつも満足げな客で一杯だ。

これが私の理解する「SEの役目」である。客に満足したソフトウェアを提供するという意味で、SEという職業はものすごく重要ある。ソフトウェアエンジニアとどちらが上か、などということは決してなく、それぞれに「客が何を本当に必要としているのか見つけ出す」、「受けた注文に基づいて作る」というそれぞれに重要な役割を果たすだけのことである。

会社ではやれ鉄人など、技術マニアなど、といった呼ばれ方をするが、世間を教えてくれる名著。願わくばもっと前に出会いたかった本。これも殿堂入り。

うちの部員にも読んでもらいたい。。。